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PETイメージング
 
理研CLST-DBDI神戸は、PET装置2台、PET/CT装置2台、CT装置1台を有しています(図1~3参照)。いずれの装置も小動物用に合わせた高い空間分解能の装置です。PET画像データは、放射性同位元素(RI)の3次元分布の数値データであり、以下の種類の画像を得ることができます。
- スタティック画像(単なるRIの3次元分布画像)
- ダイナミック画像(RIの3次元分布の時間的変化の画像)
- 全身画像(1回のスキャンでカバーできない広い範囲のRIの3次元分布画像)
- ダイナミック全身画像(全身画像の時間的変化画像、但し時間分割は荒い)
- 同期画像(心臓の鼓動や呼吸等の周期的な動きに合わせた画像)
また、PET/CTでは90度スキャナーを傾けることができ、霊長類等で無麻酔・視覚刺激下でのスキャンもできます。理研CLST-DBDI神戸では、単にPETやCTのスキャンを行っているだけでなく、意味のあるデータとしての画像を得ることを主眼に置き、運用を行っています。
PET装置およびPET/CT装置について
PET装置およびPET/CT装置のスキャン可能な領域は、それぞれ最大直径20 cm x 7.8 cm、最大直径20 cm x 15 cmの円筒形の範囲になります。この範囲に入る動物はスキャンを行うことができ、マウスやラット等の小動物から比較的小型のサル等の霊長類動物を用いたスキャンを行うことが可能です。ベッドを移動してスキャン(全身スキャン)を行うことにより全身をスキャンすることもできます。画像データは放射能濃度(Bq/ml)の値が3次元マトリクスの形で保存されています。PET装置、PET/CT装置ともにPETスキャンは感度の高い3次元方式を使用しています。これはデータを3次元的に収集するもので収集(スキャン)された時点ではスライス毎に分かれていません。この為にデータを画像化する処理(画像再構成)では、3次元方式に対応した方法を使用しています。
PETスキャンでは検出したガンマ線を時系列に時間データとともに保存し(リストモード)、スキャン後の処理で時間分割を行え、ダイナミック画像データを作成することもできます。これにより投与した薬物分布の時間変化(薬物動態)を観察することができます。マウスでは全身を一度にスキャンすることができ、全身での薬物動態の画像データを得られます。更に全身スキャンを繰り返し行うことにより擬似的に全身ダイナミックデータも得ることができ、マウス以上の大きさの動物でも全身の薬物動態の画像を得ることができます。心臓の鼓動や呼吸の信号を入力することでそれぞれの動きに同期した画像(同期画像)を得ることもできます。ダイナミック画像と同様に同期処理はスキャン後に行い、同期信号を入力していても同期画像にするかどうかはスキャン後に選択することができ、同期の有無両方の画像を得ることも可能です。
また、PET装置、PET/CT装置は、それぞれ最大45度、90度までスキャナーを傾けることができるものを採用しています。これにより、霊長類において無麻酔かつ座位または座位に近い状態でPETスキャンを行うことができ、視覚刺激等での脳の活動を画像化することができます。
画像の再構成
PET で得られたデータは画像データではありません。画像データを得るためにはPETで得られたデータを画像データに変換する処理が必要です。この処理を画像再構成と呼びます。この変換は数学的には逆問題に分類されるものです。画像再構成の方法には解析学的手法の Filtered Backprojection(FBP)法と変動を考慮して確率的に最も尤もらしい画像を求めるMaximum Likelihood – Expectation Maximization (ML-EM)法をベースにした方法の2つがあります。FBP法は比較的定量性が高いが計測データに含まれる放射線計測に伴う変動(ノイズ)も画像に反映されます。ML-EM法ではこのノイズを考慮に入れて確率的に最も尤もらしい画をベースにしたこの逐次近似式で解が得られ、繰り返し計算が必要になります。そのため一般にはIterative法とも呼ばれています。これらの方法にはそれぞれ特有のパラメータがありその選択によって画像は異なります。概してFBP法は変動成分(ノイズ成分)がそのまま画像に反映されるが比較的定量性が高く、Iterative法はノイズが少なくクリアな画像になるが、パラメータの選択に依存して定量性が変わるというそれぞれ異なる特性を持っています。理研CLST-DBDI神戸では、これらの特性と実験の目的等を考慮してパラメータ等を決め、意味のあるデータとして画像を得られるようにしています。
PETとCTの融合画像
PET/CT装置では、CT画像とPET画像を1台の装置で得ることができ、PETとCTの融合画像(重ね合わせ画像)を得ることができます。CT画像は主に解剖学的な情報を含んだ画像であり、PET画像は投与した薬剤(正確にはRI)の画像です。これら2つを融合することにより両者の利点を合わせた画像を得ることができます。PET装置では直接CT画像を得ることはできませんが、必要な場合には、別にあるCT装置でCT画像を撮り融合画像を得ることができます。
減弱補正は、PET画像データの精度に影響する重要な補正の1つですが、PET装置では外部線源を用いたトランスミッションスキャンやPETスキャンから求めた動物の形を使用する方法、理研で開発した固定具の数値モデルとPETスキャンから求めた動物の形とを組み合わせる方法等の状況に合わせた方法を用いています。また減弱の影響による誤差が許容できる場合には減弱補正を行わない画像データも得ることができます。PET/CT装置では装置から得られたCT画像を元に減弱補正を行います。このように装置や必要な画像データの精度や動物の固定方法等の状況に合わせたデータ処理を選択し運用しています。
CT装置は、X線を照射してその減弱分布を画像化する装置で、理研CLST-DBDI神戸にはラット程度の大きさまでの動物をスキャンすることができる装置を有しています。画像データはPETと同様に3次元マトリクスの数値データとなり単位はHaunsfiled Unit (HU)になります。これは空気の減弱値(正確には線減弱係数)を-1000, 水を0として線形変換したものです。骨は骨密度等により異なりますが400以上の値になります。HU値はCT値と表現されることもあり、広く臨床で使用されている値です。線減弱係数は照射するX線のエネルギー(CT使用時にはX線管の管電圧で指定)に依存しますが、管電圧による値の差をなくし診断(読影)をやりやすくしたものです。HU値はこのようにSI単位系の値ではありませんが、CT画像データを定量的に評価することができます。
小動物用のCT装置では、コーンビーム方式と呼ばれる最先端の方式を採用しています。これはPET/CT装置のCT部分でも同様です。この方式ではPETと同様にスキャンデータは3次元的に得られ、画像再構成もそれに対応したものが必要になります。CTでは一般にFBP法で再構成を行っています。CTスキャン時の照射量や画像再構成のパラメータは必要な変動成分の制限や目的部位の大きさ等を考慮して決定しています。