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理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター RIKEN Center for Life Science Technologies

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Interview CLSTのひとびと

異分野間のチームワークで、基礎研究の実用化をめざす

トランスクリプトーム研究チームの高橋葉月(たかはし・はづき)さんは、基礎研究で得た成果を応用に結びつけるために、分野を超え、国を超えてさまざまな人と協力しながら研究プロジェクトを推進しています。多様な人とのプロジェクトをうまく進めるコツはなんでしょうか。
高橋 葉月
トランスクリプトーム研究チーム リサーチアソシエイト
1978年東京都生まれ。2004年 帝京科学大学大学院 修了。ベンチャー企業勤務を経て、2008年に理化学研究所に入所。2012年より現職。

化学の世界から、くしゃみひとつで怒られる細胞の世界へ

——まずは現在のご研究について、簡単に教えてください。

現在は、特定のタンパク質の合成量を増加させる機能をもつRNAを、新たな治療法として実用化する研究をしています。DNAの遺伝情報のうち、その時必要な部分をコピーするのがRNAで、このRNAの情報をもとにタンパク質が合成されます。細胞にある膨大なRNAの中には、実はタンパク質の合成には必要ない情報もたくさん含まれます。これらは「ncRNA(ノンコーディングRNA)」と呼ばれ、以前は何の役にも立たないものと考えられていました。しかし、2004年から始まったプロジェクト"FANTOM3"(註)では、このncRNAがタンパク質の合成を促進させていることを、マウスで明らかにしました。

 

インタビューに答える高橋さん——役に立たないと思われていたところに、実は大事な機能が含まれていたんですね。

ncRNAのなかには、タンパク質合成を阻害する性質を持つRNA(アンチセンスRNA)もあるんです。"FANTOM"プロジェクトのその後の研究では、アンチセンスRNAのなかでも特殊な配列を持つ「SINE UP」と呼ばれる因子が、実際には相補的なRNA(センスRNA)のタンパク質合成を促進させていることを明らかにし、2016年にはヒトにも「SINEUP」があることもわかりました。この「SINEUP」が合成を促進させるタンパク質は、発現が低下するとパーキンソン病等の発症にかかわることが先行研究で示唆されていることもあり、こうした病気に対してタンパク質の合成量を増加させる治療薬として応用できないか、現在取り組んでいます。

 

——治療につながる日が待ち遠しいですね! いまのお話ですと、病気にかかわっているncRNAを特定したところは基礎研究、それを薬や治療に結びつけようとするところは応用研究ですね。いま高橋さんがされているのは?

どちらもやっています。基礎研究を進めつつ、企業やコラボレーター等興味をもってくれる相手に研究で得た成果をどんどん移転していきたいと思っています。

 

——DNAやRNAを扱う研究は、学生の頃からされていたのですか。

大学では、もともと有機化学の研究室にいました。その研究室では、既存の治療薬を改変してがん化を阻害する新たな薬を作る研究が行われていました。薬を作るからには、細胞に投与するとどうなるかという評価が必要ですが、当時のラボには細胞を扱う実験環境が整っていませんでした。そこで細胞を評価する研究基盤(細胞系)を構築する仕事を任されました。当然、細胞系の立ち上げは研究室で初めての試み。学外の研究者に厳しく指導されながら、試行錯誤の毎日でした。

 

——化学から生物学への転換、それまでと違うところもあったのでは?

一番大きな違いは、細胞を扱う実験は化学実験以上に"汚染(コンタミ)"に気を遣わなければならない点です。培養する細胞への異物混入を避けるためにたくさんのルールが徹底され、化学とは扱うスケールが全然違うと感じました。くしゃみひとつですごく怒られました(笑)。そのときに鍛えられた経験が、すべて今の研究につながっています。当時の同級生に会うと今でも「あのとき、私たちよくやってたよねー!」と語ってしまうぐらい、過酷な思い出です。(笑)。

*FANTOM
FANTOMは、大規模な遺伝子解析に基づいた遺伝子の機能註釈をめざして2000年に結成された国際研究コンソーシアム。第3期のFANTOM3では、それまでタンパク質合成に関与していなかったり、合成を阻害したりすると考えられていたRNAが、実はタンパク質合成の促進に関与していたことを明らかにし、「RNA新大陸の発見」として教科書が改訂されるほどの成果が出された。

プロジェクト成功の鍵はチームワーク!

——高橋さんは修士課程を修了したあと就職されましたが、博士課程に進むことは考えなかったのですか?

考えていなかったですね。私がいたラボの教授は、修士を取ったあと民間企業で有機科学の研究をしてから博士号を取った方で、「企業で働いてみないとわからないこともある」とよくおっしゃっていたので、私もとりあえず大学の外に出てみようと思っていました。そこで修士修了後は、病気に関する基礎研究成果を応用につなげることをめざして設立されたベンチャー企業に就職し、細胞を評価する仕事に就きました。が、あいにくその会社は入社後4年で事業を終了してしまって。その後、そろそろ次の仕事を探そうかなと思っていたところに、派遣会社から紹介されたのが理研でのお仕事でした。面接で初めてPiero先生に会って「じゃぁ、2日後から来てくれる?」と言われました。笑

 

——急ですね! ほんとに2日後から行ったんですか?

ほんとに行きました!そうして最初の3年間はENCODE(註)プロジェクトの技術職として、実験や技術開発に携わりました。その後、自分で研究をすすめてみないかと誘っていただいて、研究職に移行してSINE UPのプロジェクトを始めました。

 

——今はリサーチアソシエイトという研究職ですが、テクニカルスタッフという技術職とはどのように違うのでしょう?

一番大きな違いは、プロジェクトのマネジメントをするようになったことです。SINE UPのプロジェクトは自分が主体になって立ち上げるところから始めて、次第にメンバーや学生が増えてくると彼らの実験の進捗を管理したり、指導したりすることも必要になってきました。
また、国内外の様々な研究グループとの共同研究をたくさんしているので、情報共有や分担調整などもしています。みな同じ目標に向かって研究を進めているので、きちんと共有できていないと同じ実験をやってしまう可能性があり、細かい部分まで共有するように気をつけています。

 

——プロジェクトのマネジメントをしていて、一番大切なことはなんですか。

人間関係ですかね。良いチームワークを築くことが鍵だと思います。SINE UPのグループは、チームワークが本当によくて。「今このテーマを進めなきゃ」となれば全員がサポートする、一緒にデータを積み上げて、一緒に論文を出すというスタイルです。メインで働くスタッフは、テクニカルスタッフも含めて全員自分で考えて行動できる人が多いので、研究についての議論も全員でしています。チームワークがうまくいくとスピードも早くて、大きなグラントも「みんなで書けば大丈夫!」って言いながら一緒に書いています。

 

——目標を共有して一緒に切磋琢磨できるという雰囲気はいいですね。

そうですね。外国人も多く、みんな言いたいこと言うし、違っていたら「間違っている」ってはっきり言うんですけど、同じ目標に向かっているのでギスギスした雰囲気にはなりません。

 

——外国から来たメンバーとの会話は英語が主だと思いますが、英語は以前から得意だったのですか?

それが理研に来るまでは英語を使う機会はほとんどなくて。外国人研究者と一緒にプロジェクトを進めることになって、「英語を使えないとどうにもならない!」という状況に追い込まれた結果、少しずつ使えるようになりました。SINE UPのプロジェクトの立ち上げの際には、共同研究先であるイタリアの大学院に合計8か月ほど滞在し、英語のプレゼンテーションの作り方や話し方は、その時イタリアで教えてもらいました。

*ENCODE
ヒトゲノムの機能解析を目的にアメリカ国立ヒトゲノム研究所が立ち上げた国際プロジェクト。日本からは唯一理化学研究所が参加。2012年には、ヒトゲノムの80%の領域に機能があることを解明した。
イタリアでのラボのようす

相手への興味がつながりを築き、研究を発展させる

——この春に博士号を取得予定とのことですが、博士号を取ったあとについて何かお考えですか。

人に教えることが好きなので、ひとつの研究テーマに没頭して極めるよりも、チームのメンバーに技術を教えながら研究に取り組みたいなと思っています。私自身は、ラボのリーダーとして研究をリードしていく仕事よりも、基礎的な技術を移転したり、新たな技術を開発したりするほうが向いている気がするし、自信もあります。そのなかで、自分が経験したことや他の人に教わったことを伝えていけたらいいなと思っているので、そういう方面にも挑戦していきたいですね。
あと、これまではPieroさんのおかげで海外の研究者とのつながりは築けたのですが、日本の大学や研究機関でどういう研究がされているのか、RNAの研究にどのようにアプローチしているのかを実はあまりよく知らなくて。去年、初めて日本RNA学会に参加して、具体的なことを知ることができたので、もっと日本の大学や研究所とのつながりを築いて、研究を発展させられたらいいなと思っています。

 

——コーディネーターのような仕事ですね。日本では、共同研究をコーディネートしたり、基礎研究の成果を応用につなげる架け橋になる人が少ないと言われています。そういう人が増えてくれるといいですね。

近ごろは、うちのラボだけでなく恐らく日本中の研究室で同じだと思うのですが、健康や病気の治療にかかわる応用的な研究でないと外部資金を獲得しにくくなっているように思います。でも、基礎研究が不要なわけではなく、むしろ基礎研究をしっかりと継続していくために応用研究で外部資金を取ることが大事になっています。個々の研究を支えていくためには、他の研究分野とつながり、研究を展開していくことが今後必要だなと思っています。

 

——異なる研究分野がつながるには何が大事だと思われますか?

もうそれは、サイエンスではないですね。コミュニケーションだと思います。自分がやっていることを伝えるためには、相手が何をやっていて、何を考えているかということに興味を持たないと始まらない。そうして知識を広げていった先に、異なる研究分野とつながるポイントが見つかるのだと思います。

  

——プロジェクトのマネジメントにもチームワークが大事だと言っていましたね。

そうですね。研究以外のことにも共通点をみつけて話題を広げるようにも意識しています。著名な先生方は、忙しくしているはずなのに、不思議とサイエンス以外のことにもすごく詳しいんですよね。なので、話題が尽きることはほとんどありません。 あと、極力メールでやり取りしないようにもしています。時間がなくても、本人のところに行って話をしたり、関係者全員で話したりするように意識しています。

 

——プロジェクトのメンバーには海外の先生もいると聞きましたが、そういう方とのコミュニケーションは?

離れた場所にいる先生とは、Skypeで話すようにしています。メールを書いても「とりあえず話しましょう」っていう人が多いんです。というのも、メールだけだと本心が伝わらないことが結構あって、結局うまく意思疎通が出来なくて。
あと、わからないことがあったらわかる人に直接聞いて勉強するのが一番だとも思っています。馬鹿な質問だと思うようなことでも、聞かれた人はそんなこと思わないんじゃないかなって。むしろ、わかったふりをして人に聞かないで進めて、実はわかっていませんでしたってことのほうが、結局そのあと大変なんです。昔はそういうことが何度かありました。
外国の方って、自分が話すことを面倒くさがらない人が多いですね。Pieroさんの共同研究者はバックグラウンドがさまざまで、お医者さんだったり、歯医者さんだったり、私が知らないことを専門にやってきた方が多いので、わからなくて行き詰まったときには知りたいことの専門に近い先生に尋ねるのが早いなと思います。専門書を最初から読むよりも、みなさんすごく丁寧に教えてくださりますし。

*ご趣味は…?
小さい頃からずっと音楽が好きでピアノを弾いていたという高橋さん。「進路選択のときには、ピアノの道に進むか、大学で化学の勉強をするか悩みました。どちらもやりたかったのですが、楽しくピアノを弾くことなら自分ひとりでもできると思って、最終的に化学の研究を選びました。ピアノは、いまでもよく弾いていて、ラボのBBQパーティーで演奏することもあります。」音楽もコミュニケーションの一端を担っているようです。

大好きな細胞を守るために……

——最後にこれから研究者を志す学生の方に向けて、ひとことお願いします。

ラボのメンバーにこのインタビューのことを話したら、「研究者はお昼ごはんを12時に食べられないことを伝えたほうがいい!」と言われました(笑)。実験をしているとそちらのスケジュールが優先されるので、ランチタイムを逃してしまうことがよくあります。

 

——食べたいときに食べられないってことですね。

細胞を顕微鏡で観察する高橋さん私自身はあまり苦ではないんですけど……私は細胞を培養しているとすごく癒されるので(笑)。どちらかというと、人と議論したり、会議したりするほうが疲れてしまうので、そんなときは細胞を培養したり、DNAやRNAを見たりして、心を落ち着かせます。

——ではマネジメントの間にも細胞の培養をしたり?

そうなんです。細胞培養を一旦始めると時間がそちらに取られて他の仕事ができなくなるのですが、ようやく予算や外部資金の申請が落ち着いたので細胞培養を始めたら、別の予算の仕事が来てしまったんです。時間がないのでPieroさんに相談したら「大好きな細胞を守るために、マネジメントの仕事もがんばろう!」と言われてしまいました。

 

——うまいこと言われてしまいましたね。笑

マネジメントの仕事は予算などお金に関わるのですごくシビアですし、細胞培養のように癒されることもないのですが、でも自分の仕事によって研究が世に認められ、広まっていくとやりがいを感じますね。若い方には、研究に対していろんな関わり方があることを知っていただけたらと思います。

(2018年3月7日 掲載)

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